神話を巡る冒険：伊勢・出雲巡礼記　【元伊勢籠神社・真名井神社＠京都府】後編

2016/02/11 | かづよ備忘録, オトナの社会科見学, 日本神話を巡る冒険 | kazuyo

神話から読み解く「籠神社・真名井神社」

籠神社・真名井神社に関連する神様は赤丸で囲んだ3柱。

籠神社の公式WEBサイトによると、彦火明命(ヒコホアカリ)は天照大神(アマテラス)から豊宇気毘売神(トヨウケヒメ。豊受大神とも書く)を祀るための息津鏡(おきつかがみ。沖津鏡と書かれることも)・邊津鏡(へつかがみ)を授けられ、それを祀って国を統治するよう命じられたのだそう。

この鏡は、古鏡を専門とする樋口隆康氏(故人。京都大学名誉教授・橿原考古学研究所長も務められていた方)によると、いずれも中国製で、息津鏡は直径17.5cmで後漢時代(紀元50年～100年頃)に、邊津鏡は直径9.5cmで前漢時代の後期(紀元前1世紀後半。弥生時代中期)に作られたものとみられている。

ヒコホアカリはその鏡を持って丹後国(旧丹波国)に天降りし、祀るのにふさわしい場所として天橋立の北側の籠(この)神社奥宮にあたる真名井原で「匏宮(よさのみや：現在の真名井神社)」を創祀した。

それ以来ヒホコアカリの血脈に繋がる海部(あまべ)家が丹波国造(たんばのくにのみやつこ)となり、世襲制でトヨウケヒメの祭祀を現在に至るまで継承しているのだとか。

面白いことに、日本で最も古いと言われる「海部氏系図」の中の「勘注系図」というものの中に「天御祖(あまつみおや：天皇の先祖とされる天上の神のこと)のみしるしであるご神宝で、息津鏡・邊津鏡」という名前が出てくるという。このように、きちんと記録が残されているだけでなく、その記録に該当すると思われる鏡があるのはとても珍しいのだそう。

豊受大神ってどんな神様？

ところで、籠神社が「元伊勢」と呼ばれるようになったのは、籠神社の奥宮である真名井神社に祀られていた豊受大神(トヨウケヒメ)が、伊勢神宮の外宮に祀られるようになったからである。では、トヨウケヒメってどんな神様なのだろう。

古事記によると、トヨウケヒメは、伊邪那美命(イザナミ)が火の神である火神迦具土神(カグツチ)を産んだ際、陰部をヤケドして寝たきりになり、その寝たきりのイザナギの尿(ゆまり)から生まれた稚産霊(ワクムスビ)の娘で、アマテラスの孫にあたる女神とされている。

神名の「ウケ」は食物のことで、食物・穀物を司っている。後に、他の食物神の大気都比売(オオゲツヒメ)・保食神(ウケモチ)などと同様に、稲荷神(いわゆるおいなりさん。倉稲魂命：ウカノミタマ)と習合し、同一視されるようになった。

一方で天女であるとする説もある。丹後国風土記逸文によると、丹波郡比治里の比治真奈井(ひぬまのまない)で天女8人が水浴をしていところ、老夫婦がそのうち1人の羽衣を隠したため天に帰れなくなり、その老夫婦の娘として暮らすようになった。

その天女は万病に効くという酒を造り、機織りも教え、家はたちまち裕福になった。しかし、十数年後にその老夫婦に家を追い出され、あちこち彷徨った末、竹野郡船木郷奈具の村で祀られるようになった。この天女こそ、豊宇賀能売神(トヨウカノメ)つまりトヨウケヒメであるというのだ。

……ひどい話だ。救いがない。ちなみに、薬酒は口から吐いて造っていたそうですよ。造るとこ見たらちょっと飲めないよね。うぇっぷ。

ま、神様としてもイメージ大事だもんね。酒を吐く女より、アマテラスのお食事係の女神っていう方が　断　然　好　感　度　高　い　。

ところで、なんでトヨウケヒメが伊勢神宮外宮に祀られることになったかというと、伊勢神宮外宮の社伝(止由気宮儀式帳)によると、雄略天皇の夢枕にアマテラスが現れて「自分一人では食事が安らかにできないので、丹波国の比沼真奈井(ひぬまのまない)にいる御饌(みけ：神様に献上する食事)の神、等由気大神(トヨウケノオオカミ)を近くに呼び寄せなさい」と言ったので、丹波国から伊勢神宮外宮に遷宮させたとされたとのこと。

元伊勢と呼ばれる神社の中でも、籠神社・真名井神社は別格と言われる所以がちょっとわかった気がする。